これまでの我々の顎顔面形態と顎関節機能異常との関連についての研究結果より、顎関節機能異常の発症機序解明のひとつとして、顎関節機能異常者には機能的咬合異常や咬頭嵌合位が機能的に規制される咬合位が存在すると考えられ、顎関節窩での下顎頭にかかる荷重分布、荷重ベクトルについて検討を加える必要があると考えられた。今回の研究目的は、外科矯正治療による顎骨形態、咬合や筋機能の変化が顎関節部に及ぼす影響を検討するとともに、顎関節周囲の荷重、応力変化について下顎骨、側頭骨下顎窩、円板および筋活動を想定した有限要素モデルを用いた生体力学的シュミレーションにより歯列・顎骨形態と顎関節機能異常発現との関連を検討することにある。顎機能異常患者に用いた歯科矯正ならびに外科矯正治療(下顎枝垂直骨切り術)による咀嚼筋、顎骨を含めた咬合の再構築は、臨床的に明らかな症状改善を示した。これらは顎関節規格写真での明らかな顎関節腔の増大と、顎関節MRI所見における関節円板復位の所見からも、顎関節機能異常の病態改善が行われていることが明らかとなっている(欧州口腔顎顔面外科学会発表、1996.9)。このことは同時に下顎頭、関節円板にかかる荷重負担が関節円板変位や他の顎関節症症状を引き起こしている可能性を示唆するものである。一方顎関節への荷重、応力変化に関する三次元有限要素モデルを用いた生体力学的シュミレーションモデル実験は2mmピッチのCT画像と高速医療有限要素モデル自動生成プログラムを用いることにより下顎骨モデルの作成を行った。現在このモデルを用い、下顎骨形態、咬合荷重による下顎頭、顎関節部への三次元線形応力解析を行ない顎関節部での荷重、応力の発現ならびに分布について検討を行っている(アメリカ顎顔面口腔外科学会発表予定(1998.9))。 今後さらに、種々の顎骨形態を再現させ、下顎骨形態による荷重、応力分布の違いを検討しつつ、関節円板を介した下顎頭ならびに下顎窩を緻密骨層、海綿骨層との二重構造を想定しさらに詳細に、この部での荷重、応力解析について検討を行う。
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