本研究は、顎骨形態、咬合の変化が顎関節機能異常に影響を与えるか否かを臨床的に検討する一方、三次元有限要素モデルを用いた生体力学的シュミレーションにより咬合、咀嚼状態が顎関節部へ及ぼす荷重、応力変化について検討することにより、歯列・顎骨形態と顎関節機能異常発現との関連について検討することを目的とした。 1)顎骨形態と顎関節機能異常との関連性については、これまでの研究結果から顎変形症による咬合異常は、なんらかの機能的咬合位をもたらし、それらが顎関節機能異常発現の要因となり得ると考えられていたが、今回の研究では非対称を除き有意差を認めなかった。 2)顎骨形態ならびに咬合状態の改善と顎関節機能異常症状については、歯科矯正治療と下顎枝垂直骨切り術による咬合の再構成と顎関節部への荷重減を計り検討を加えた。術後、顎関節症状の著しい改善認められ、これらは比較的長期にわたり同様の結果を示していた。 3)三次元有限要素モデルによる咬合時の顎関節部での応力発現については、中心咬合位での噛みしめ時は顎関節部の前方外側部に圧縮応力を生じ、片側咀嚼の場合、作業側において外側後方部に通常の負荷より明らかに大きな荷重負担が加わり、生体力学的には顎関節症状を引き起こしやすくなる可能性が示唆された。 これらの結果から、歯列・顎骨形態と顎関節機能異常との関連を考えると、顎骨形態、咬合の変化は、顎関節部での荷重ならびに負担様式に影響を与えるものの、顎変形症のように長期に持続的に一定方向に加わる異常に対しては、必ずしも顎関節症状の症状発現につながっていない。シュミレーション研究や下顎枝垂直骨切り術による臨床研究から顎関節機能異常にはメカニカルストレスが関与している可能性が高いものの、症状発現には宿主のメカニカルストレスに対する適応因子もその一因になっている可能性が示唆された。
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