研究概要 |
特別養護老人ホーム入所者を対象として,全身状態と口腔内状況を調査した.その結果,全身的基礎疾患としては,循環器系疾患が大半を占め,心電図所見で何らかの異常が約80%にみられた.また,ADLの低下がそのまま口腔衛生状態および口腔機能の低下に結びつくことも示唆された.片麻痺患者では,義歯の扱いが困難なため,装着率が極端に低くく,一方,虚血性心疾患患者では,積極的な歯科治療が敬遠されてきたため,口腔内状況が極めて悪かった.痴呆患者では食欲減退の原因が歯科疾患による場合もあり注意が必要であった. ホームでの2年6ヶ月間の歯科治療の結果,患者数は156名で,平均年齢は79.7歳であった.主訴としては義歯に関連したものが半数以上を占め,加齢が進むにつれて,その割合も増加した.受診回数は一人平均11.1回であった.この間に19名が死亡し,死亡平均年齢は84.6歳であった.ホーム入所者の口腔衛生状態や全身状態は不良であり,ホーム内に歯科診療室があれば入所者の定期的な受診と先を見据えた診療が可能で,大きな成果を挙げることが期待される. 一方,入所者で,何らかの循環器系疾患を有する患者に対して,歯科治療中の血圧,心電図を調べた.その結果,全身状態が比較的良くコントロールされ,安静時の心電図に異常所見はなくても,歯科中の血圧の上昇は避けられず,上室性および心室性期外収縮も高頻度で見られた.また,ホームの入所者に対して『水飲みテスト』と,嚥下時の舌運動を超音波断層法にて観察し,さらに対象の誤嚥,肺炎の既往の有無,口腔内の状態,食餌の形態と摂食時の状態などの背景因子との関連性を調査した.その結果,『水飲みテスト』異常者に舌運動の異常が多く観察され,高齢者の肺炎が嚥下機能の低下と密接に関連していることが判明した.
|