顎関節症に対する関節鏡視下剥離授動手術の適応を明らかにする目的で、以下の基礎的、臨床的研究を行い、本法の効果ならびに為害性について検討した。 (1)基礎的研究;ヒツジの10顎関節を用いた関節鏡視下剥離授動術施行後の治癒経過に関する検討では、電気メスにより切離された前方関節包は、術後1週目に線維組織の増殖が始まり、3週目に軽度の癜痕を伴って修復された。なお、一部の関節で電気メスの熱傷による軟骨壊死が散見され、3関節で関節円板の穿孔を認めた。この結果より、本術式により関節腔の狭窄などをきたすことなく治癒することが確認され、術後の理学療法は術後3週目までに完了する必要性が示された。一方、重篤な合併症は認めないものの、電気メスより非侵襲性、低深達性の切開機器の応用が必要と考えられた。 (2)臨床的研究;100例123関節の顎関節内障患者に施行した鏡視下前外側関節包切離術を臨床的に検討したところ、9.7か月の平均観察期間において、開口度は31.3mmから42.7mmに増加し、関節疼痛は、中等度以上の疼痛106関節であったものが術後に消失81関節、軽度35関節と改善した。全体の手術奏効率は95.9%であった。合併症は、重篤なものはなく、短期の顔面神経不全麻痺4関節、耳介側頭神経麻痺7関節、外耳道損傷1関節であった。 以上の結果より、顎関節内障に対する関節鏡視下前外側関節包切離術は、従来の単純剥離授動術よりもより確実な関節授動と高い奏効率が得られる、安全で優れた手術法であることが示された。
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