研究概要 |
平成9年度は次のような研究成果を得ることができた。新規なアンジオテンシンII(AII)受容体拮抗作用物質として、既存のロサルタン(デュポン社)のイミダゾール環の代わりにアシルイミノチアジアゾリン骨格を有する新規化合物群に注目し、“潜在的環内窒素原子活性化能"を有するトリフルオロアセタミド-1,3,4-チアジアゾールを用いて多数の誘導体の効率的な合成を達成した。高活性を示したKRH-594ならびに関連化合物をX線結晶解析に供したところ全ての化合物においてチアジアゾリン環の硫黄原子とイミドカルボニルの酸素原子との間に分子内非結合性相互作用が観察された.この1,5-タイプの分子内非結合性S・・・O相互作用(close contact)の物理化学的様相を明らかにするために簡単なモデル化合物を合成しX線結晶解析ならびに分子軌道(MO)計算を試みた。その結果、分子内非結合性S・・・O相互作用が認められ、それらのMO計算から非結合性相互作用を基盤とする当該分子の安定性を考察することができた。この様な分子内非結合性S・・・O相互作用は、非天然型β-ラクタム系抗生物質ビアペネムを始め既存の多くの医薬品分子内に存在することが確認され、高い薬物活性に重要な役割を演じていることが示唆された。その他に医薬創製や合成に有用な新反応の開発も実施展開した。即ち、“潜在的優先エノール化"及び“潜在的優先脱離能"を有するキラルなモノチオールジエステル体を用いてユニークなDieckmann型環化反応を活用するenantiodivergentなプロセスを確立した。次いで、スズ(II)トリフレートと3級アミンの存在下において生成する“潜在的スズエノレート活性種"を活用し高いZ選択性で目的のHWE反応が進行することを見出した。
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