本課題においては、複合糖質の中で特に構造が複雑で多様性に富んでいる糖タンパク質糖鎖を研究の対象とし、以下の研究を行なった。 (1)様々な糖鎖の結合様式の中で、マンノースのβーグリコシドはアスパラギン結合型糖タンパク質糖鎖に共通の中核構造であり、糖タンパクへの合成的なアプローチを行なううえで不可避の問題である。そこで我々はマンノース供与対のC-2位置換基としてp-メトキシベンジル基を採用する独自の手法を開発した。本研究課題では、この反応の最適化を行い、その結果を更に発展させてアスパラギン結合型糖鎖の立体選択的合成を行なうことを計画した。その結果、80%を超える収率で2糖(Manβ1→4GlcNAc)及び3糖(Manβ1→4GlcNAcβ1→4GlcNAc)に対応する構造が完全な立体化学制御の下で得ることが可能となった。また、その際中間体となる混合アセタールの立体配位がSであることを明らかにした。更にこの反応を用いて。いくつかの複合型糖鎖構造の化学合成を行なった。 (2)我々の研究室では糖鎖の固相合成を一つの柱として研究を展開してきた。本研究期間において得られた成果は以下の通りである。 I)分子内アグリコン移転によるβ-マンノシル化を高分子担体上で行なった。これにより、ほとんど精製操作を行うことなく目的物を単離することができた ii)ポリラクトサミン型糖鎖の固相合成に特に有用と考えられる新たな保護基であるジクロロフタロイル基を開発した。 iii)当研究室で開発した、オルトゴナルグリコシル化法を応用し、高分子担体上での糖鎖合成をおこなった。 iv)上記方法論を更にシアル酸含有糖鎖に応用するために、高分子担体に結合させたシアル酸供与体を合成し、これを用いる立体選択的グリコシル化反応を行なった。 V)固相合成において問題となるグリコシル化反応の立体選択性を、液相反応との比較において検討した。
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