研究概要 |
神経系と免疫系の機能相関およびそれに関する分子について,以下の三つの新知見がえられた。 1)CD4^+CD8^+の未成熟T細胞であるラット胸腺細胞に,神経伝達物質であるアセチルコリンに対するムスカリン性受容体が発現していた。免疫抑制薬として頻用されるグルココルチコイドをin vivoで投与したラットの胸腺細胞では,ムスカリン性受容体数が有意に増加しており,またムスカリン性受容体刺激はDNA断片化を伴う胸腺細胞のアポトーシス(細胞死)を促進させた。またグルココルチコイドを投与したラットの胸腺細胞はマイトジェンであるCon A(concanavalin A)で刺激した際のDNA合成が減弱しており,このときNO合成酸素の誘導とNO蓄積が増大していた。 2)ヒト末梢リンパ球にあるムスカリン受容体をあらかじめ刺激しておくと,マイトジェンであるPHA(phytohemagglutinin)によるIL-2(interleukin-2)産生,IL-2受容体のαとβサブユニット蛋白の発現,DNA合成がさらに増強された。IL-2遺伝子プロモーター領域をルシフェラーゼ(レポーター)遺伝子に結合させた遺伝子をトランスフェクトした細胞をムスカリン受容体刺激した場合にもルシフェラーゼ活性が増加していた。この時,核内転写因子の一つであるAP-1活性が増加していた。 3)免疫細胞と機能的類似性を示す脳のグリア細胞のモデルとしてヒトグリオブラストーマ(A172)細胞を用い,神経ペプチドであるカルシトニンがIL-6産生を引き起こすことを見いだした。炎症時には脳,特に視床下部においてカルシトニンやその受容体レベルが変化していることを示す知見も得ており,神経ペプチドであるカルシトニンがグリア細胞のサイトカイン生成を介して脳で機能していると推定された。
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