研究概要 |
炎症をはじめ免疫系機能などの各種防御収応は,脳虚血後のニューロンの生存もしくは障害にも重要な役割を演じている.そこで本研究において,脳虚血へのグリア・ニューロン応答として一過性前脳虚血のモデルとしてラットの四血管閉塞(4VO)モデルを用いて、虚血ストレスを負荷させた際の神経細胞死をサイトカイン、ケモカインおよび誘導型NO合成酵素(iNOS)産生について検討した。15分間の虚血/再潅流後、3日目より海馬CA1領域において遅延性のアポトーシス様神経細胞死が認められた.7日目には同領域のほとんどの神経細胞は死に至ることを示した。一酸化窒素(NO)が神経細胞死に関与していることが種々報告されていることから、次に、誘導型NO合成酵素(iNOS)の発現について検討した.RT-PCR法によるiNOS mRNA発現,および免疫組織化学的方法によるiNOSの発現を検討したところ,虚血後3日目の大脳皮質および海馬において発現が認められ,7日目ではさらにiNOS mRNA発現の増強を認めた.虚血後7日目におけるiNOS蛋白質の発現は免疫組織化学的方法を用いた検討でも同様であった.iNOSの産生細胞を特定するために免疫組織染色を行ったところ、本モデルにおいてiNOS蛋白質は主にアストログリアにおいて発現していることが明らかとなった。また、虚血ストレスに伴うサイトカイン、ケモカインの産生について検討したところ、大脳皮質,海馬において虚血/再潅流後12時間をピークとするIL-6およびCINC mRNA発現が一過性に起こることを認めた。IL-6は神経細胞の生存因子として知られていることから、ストレスに対して防御因子として働いている可能性が示唆された。 脳虚血の際のニューロン死に前後して起こるグリア細胞の活性化およびNO,サイトカイン、ケモカインの産生は基本的には脳における防御機椎としての炎症的反応と解釈され得るが,これらが脳にとって保護的であるのか障害的であるのかに関しては単純ではなく,今後の詳細な解析が望まれる.
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