本研究では、主としてテトラサイクリン排出蛋白Tet(B)を素材として、異物を排出する膜輸送系の立体構造の推定と、基質輸送経路の解明を行った。まず、Cys-free変異体をもとに、任意の位置の残基をCysに置換した変異体を多数構築し、膜透過性のSH試薬NEMと、膜不透過性のAMSを用いて、生菌体で両者ともに結合するものは菌体表層(ペリプラズム側)、NEMのみ結合するものは菌体の内側という基準で、膜を12回貫通する蛋白であることを、初めて活性のある膜蛋白を用いて実用的に決定することに成功した。この方法は異物排出蛋白のみならず、膜貫通蛋白の構造決定に広く応用できる普遍的な方法である。ついで、連続的にCys置換した一連のCys走査変異体を用いて、疎水的な領域ではNEMとの反応性が悪く、親水的な領域では良いという原理に基づいて、膜貫通領域の範囲を精密に決定した。このことから、さらに、ある特定の膜貫通セグメントには膜内部であってもNEMの結合する部分が存在すること、すなわち、基質が透過する親水性のチャネルが存在することを見いだした。NEMとの反応性を測定することにより、変異導入や、基質との相互作用によるコンホメーション変化を測定できることも明らかになった。これにより、(1)基質によつて、inside closed/outside open構造から、inside open/outside closed構造への構造変化が起こることがわかり、入り口と出口が同定できた。(2)細胞質側の変異が、ペリプラズム側の変異によって抑圧される現象は多くの研究者が発見しているが、その原因は不明であったが、この方法により、第一変異によって起こる遠隔構造変化が、抑圧変異によって阻止されるという機構が解明された。さらに、本研究に基づき、膜輸送蛋白としては初めて、立体構造モデルを提出することに成功した。
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