我々は以前に、マウス乳癌由来FM3A細胞に5-fluoro-2′-deoxyuridine(FUdR)を作用させると細胞内のデオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTP)プールに不均衡が生じた後、DNA二本鎖切断酵素が誘導、または活性化され、細胞内DNAが特異的な長さの断片に切断され、細胞が死に至ることを見い出している。我々はこのDNA二本鎖切断酵素を精製し、その性質を調べた。また、この細胞死の過程で細胞内の酸性化が観察されるため、このDNA二本鎖切断酵素の活性化と関連していると考えられる。さらに、セリンプロテアーゼ阻害剤などによって細胞死が抑制されることから、プロテアーゼと細胞死との関係を検討した。 精製したDNA二本鎖切断酵素は分子量が約40kDaであり、多価陽イオンを要求せず、その至適pHは約6.3と酸性領域にあることがわかった。また、フローサイトメーターによる解析から、FUdR使用後約12時間以降でDNA鎖の切断化と酸性細胞群の出現が同時に観察された。つぎに、酸性化細胞群と非酸性化細胞群とを分取してDNA鎖切断の有無を調べたところ、酸性化細胞群にのみDNA鎖の切断化が認められた。一方、FUdRによる細胞死、DNA鎖の断片化、細胞内酸性化がプロテアーゼ阻害剤によって抑制された。これらのことから、FUdRによるFM3A細胞の細胞死では細胞内酸性化がDNA二本鎖切断酵素の活性化に関係していると考えられた。また、この細胞が死に至る過程の細胞内酸性化とDNA鎖の断片化にプロテアーゼが関連していると推察された。
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