我々は、抗腫瘍核酸代謝拮抗剤5-fluoro-2'-deoxyuridine(FUdR)が誘導する細胞死の分子機構と、necrosis及びapoptosisとの関連性についてマウス乳癌由来FM3A細胞を用いて検討した。細胞死に関与するDNA二本鎖切断酵素は分子量が約40kDAであり、多価陽イオンを要求せず、その至適pHは約6.3と酸性領域にあることがわかった。一方、FUdRによる細胞死、DNA鎖の断片化、細胞内酸性化がプロテアーゼ阻害剤によって抑制された。FUdRによるFM3A細胞の細胞死では細胞内酸性化がDNA二本鎖切断酵素の活性化に関係していることがわかった。FM3A細胞(野生株F28-7)におけるFUdRによる細胞死の誘導には、protein kinase Cを介したc-fos及びc-junの発現、及びそれらの発現の上流においてセリンプロテアーゼまたはcaspaseに分類されるプロテアーゼが、さらに細胞死の後期においてcaspase-3-like proteaseが関与していることが明らかとなった。FM3A細胞の野生株F28-7細胞では、FUdRによる細胞死はnecrosisを示したが、自然突然変異を起こしたと思われるF28-7細胞から単離したF28-7-A細胞においては、apoptosisが観察された。本研究の結果からは、細胞死誘導のシグナルが弱くかつ細胞内pHが酸性化する条件では、細胞はapoptosisを起こし、逆に細胞死誘導のシグナルが強くかつ細胞内pHが酸性しない条件では、細胞はnecrosisを起こすことが示唆された。このように2つのクローン間での細胞死の分子機構の違いを調べることによって、どのような細胞内の現象がapoptosisとnecrosisに細胞を導くのか調べることができると考えられる。さらに、これらの細胞死の分子機構を詳しく調べることにより、細胞内シグナル伝達系を標的とした新しい化学療法の開発が期待できる。
|