すでに研究代表者らは、大腸菌内のDNAが、熱ショックタンパクの誘導が見られる条件下で弛緩することを示し、DNAの超ら旋構造の変化が熱ショックタンパクの誘導において重要であることを提唱している。本研究においては、DNAジャイレースの特異的阻害剤を用いて、細胞内でのDNAの弛緩反応とs32の安定化及び合成量の上昇の連関性について検討した。その結果は、DNAの超らせん構造の変化に伴い、σ32の安定性及び合成量が変化することが分かった。さらに本研究では、in vitroでのDNA依存のタンパク合成系を用いて、σ32の合成に対する鋳型DNAの弛緩の効果を検討した。その結果、鋳型DNAの弛緩によりテトラサイクリン耐性蛋白の合成が抑制される条件下において、σ32の合成は抑制されず、逆に1.2倍程度上昇することを示した。テトラサイクリン耐性遺伝子を含め、多くの遺伝子の発現は鋳型DNAの弛緩により抑制されることが分かっている。従って、細胞内のDNAが弛緩している条件では、σ32の絶対的な合成量の上昇に加え、相対的に合成量が上昇していることが考えられる。本研究は、DNAの弛緩がσ32の安定化及び合成促進を導くことを示唆したものである。何故DNAの超らせん構造の変化がσ32の安定性及び合成量の変化をもたらすのか、という点について分子レベルで明かにしていくことは今後の課題である。
|