1、これまでにリン酸やトリフルオロエタノールの添加により、リゾチームの不可逆反応速度が変動することがわかっている。即ちこの結果は、添加剤が蛋白質の不可逆反応をコントロールすることを意味している。そこで、不可逆変性の原因となるペプチドでの化学反応を抑制する方策を見いだす一環として、種々の添加剤の存在下でのリゾチームのpH6、100℃での不可逆失活反応を追跡した。銅イオンを添加するとリゾチームの不可逆反応は抑制された。また、これまでの結果から、蛋白質濃度を高くするとリゾチームの失活速度は速くなるけれども、銅イオンを添加するとより高蛋白質濃度でも失活速度は抑制された。この理由として、銅イオンが遊離したチオール基を速やかに酸化するために、分子内及び分子間のSSの組み替え反応を抑制していると考察した。また、アセタミド、エタノール、グリセロールを添加することによっても、リゾチーム失活速度は抑制された。この機構を調べるために、種々のモデル化合物の解離性残基のpKaを添加剤存在下または非存在下で測定した。その結果、軒並み大きく酸性解離性残基の解離が抑制され、失活機構が弱酸性条件下のそれに変動していることがわかった。 2、Asp-GlyおよびAsn-Gly配列は、ポリペプチド中で最も不安定である。リゾチーム内の3つのAsp-GlyをAsp-Ala配列に、1つのAsn-Gly配列をAsn-Ala配列に、またこれらの変異を多重に施したリゾチームを酵母で発現・分泌させた。これらのpH4、100℃でのリゾチームの失活速度を測定した。弱酸性条件下での失活速度は、蛋白質の安定性と良い相関があることが示されている。これらの変異リゾチームの安定性はいずれも低下しているが、不安定性に反して失活速度は大幅に低下したことがわかった。この結果は、化学変化しやすいペプチド配列の除去は、蛋白質・ペプチドの不可逆失活抑制に非常に有効であることを示している。
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