1.神経成長因子(NGF)刺激したPC12細胞、肝細胞増殖因子(HGF)刺激したMDCK細胞において、それぞれ特異的にMAPキナーゼ(ERKs)によってリン酸化される細胞蛋白質を、MAPキナーゼ・キナーゼに対する特異的阻害剤(AMPC)を利用してMAPキナーゼ系を特異的に遮断するなどして検索した。その結果、NGF/PC12細胞系においては約20kDaの分子量をもつ蛋白質を見いだし、これは従来より神経系細胞の機能制御において重要な役割を果たす可能性が示唆されていたStathminであること、一方、HGF/MDCK細胞系では200kDa前後の分子量を持つ蛋白質を検出し、これは細胞骨格系(アクチン系)の機能制御において重要な役割を果たす可能性が高いMyosin Light Chain Kinaseであること、を明らかにした。すなわち、MAPキナーゼはそれぞれ特異な蛋白質のリン酸化を介した機能制御を通して、最終的に各細胞系において多様な生理応答を発現する機構を、分子レベルで明らかにすることができた。 2.「核移行シグナル」を持たないMAPキナーゼの核移行に関しては、細胞外刺激に応答して活性化された何らかの「輸送蛋白質」によってそれが核内に輸送される可能性を検討する目的で、ERK2-MAPキナーゼ遺伝子に様々な欠失、変異を導入した後、それをGFPとの融合蛋白質としてSwiss 3T3細胞に発現させ、血清刺激後の各変異MAPキナーゼの挙動をGFPの蛍光を指標として解析した。その結果、ERK2-MAPキナーゼ(359アミノ酸)の325〜334番目付近にそれを積極的に核に移行させる、あるいはそれを核に留めるために必要な配列が存在する可能性が示唆された。次にERK2-MAPキナーゼのC末端30アミノ酸残基(上記配列を含む)と特異的に結合する蛋白質を、上記ペプチド配列をGSTと融合させたものを利用して検索し、110kDa前後の分子量を持つ2種類の蛋白質を検出している。
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