従来の我々の研究から、HIC-5蛋白質は細胞老化を引き起こすことが明らかとなっていたが、本研究ではさらに、別な非可逆的増殖停止である細胞分化における機能について検討を行った。in situハイブリダイズ法で、HIC-5mRNAのマウス臓器内分布、発生過程における発現を検討したところ、脾臓の白脾髄、肺の上皮、および大脳皮質で高い発現が見られ、これらの細胞はいずれも最終的に分化した細胞であった。そこでHIC-5の発現ベクターを培養細胞に導入して、細胞の形質・増殖に与える影響を検討した。マウス筋芽細胞(10T1/2、C2C12)、ラット褐色細胞腫(PC12)、ラット骨芽細胞(RCT-1)に導入し、HIC-5mRNAを発現させた時の分化形質、遺伝子発現の変化を解析した。その結果、いずれの細胞でも分化の促進が認められ、アンチセンス発現で逆に分化の阻害が見られた。次に、HIC-5蛋白質のDNA結合配列を決定したところ、ヒト反復配列A1uIに特異的に結合することが明らかとなった。この蛋白質対する抗体を作成し、細胞を免疫染色した結果、HIC-5蛋白質は核周辺に存在することが認められている。これらの結果から、HIC-5蛋白質は遺伝子の高次構造の制御を通して、様々な分化関連遺伝子の発現および細胞増殖の制御を行うことが示唆された。
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