今年度は、初年度に単離した新しい遺伝子の解析を中心に研究を進めた。 1.シス因子の同定 (1)新しく単離した遺伝子(PEN11B)の第一エクソンの3.2kb上流にH19遺伝子下流の反復配列に類似した配列(tandem repeat)が見いだされた。この反復配列は5塩基を単位とする繰り返し配列から成り、375bp内にCCCAGが30回、CTCAGが9回繰り返されていた。H19下流の反復配列が280bp内にCCCAGが24回CCCTGが20回繰り返しているのに対し、より崩れた反復構造となっていた。 (2)この遺伝子の3'UTRにBstUI/HhaI多型を見いだし、これを利用して発現のアレル特異性を解析した。脳、肝臓および腎臓では両方のアレルからほぼ等しく発現していた。 (3)一方、胎盤では約2倍のアレル間の発現の差が見られた。解析した9例の内由来を同定できた5例すべてで、発現の強いアレルは母親由来だった。従って、この遺伝子は非定形的刷り込み遺伝子に属すると判断された。 (4)胞状奇胎、正常胎盤および胎児肝を用いて、この反復配列を含む5'端上流域および別種の反復配列の存在した第2イントロンを中心にメチル化を解析したが、明瞭な選別的メチル化を示す領域は見いだされなかった。 (5)WT1 locusのシス因子の同定に向けてこれまで集積した7例の品胎胎盤および2例の四胎胎盤から材料の選別作業を進めた結果、胎盤でのWT1発現が低いのに比し脱落膜では比較的良く発現しており、DNAレベルで母体組織の混入が否定されても問題と成りえること、胎盤への母体組織の混入は100%避け得るものではないことから、胎盤を利用したWT1遺伝子のシス因子同定は適切でないと判断してこれを断念した。 2.トランス因子の単離・同定 シス因子の同定に予定以上の時間を費やしトランス因子の単離・同定の作業に移るのが遅れたが、現在subtractive PCRの条件を検討中である。
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