傷害胃粘膜における胃酸分泌変化とその調節機構の解明:内因性NOの役割

1996 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 08457638
• 研究種目: 基盤研究(B)
• 研究機関: 京都薬科大学
• 研究代表者: 竹内 孝治 京都薬科大学, 薬学部, 教授 (00150798)
• 研究分担者: 加藤 伸一 京都薬科大学, 薬学部, 助手 (90281500)
• キーワード: 胃粘膜 / 傷害発生 / 酸分泌抑制 / 一酸化窒素 / 管腔内Ca / 修復機転 / 粘膜血流

研究概要

ラット胃粘膜に胆汁酸の一種であるタウロコール酸(TC:20mM)を30分間適用することによって上皮細胞傷害を発生させ、その前後の酸分泌変化ならびにその調節機序について検討し、以下の結果を得た。1)TCの胃粘膜適用により酸分泌は抑制されるが、この変化はNO合成阻害薬(L-NAME)の前処置により完全に拮抗され、酸分泌は促進反応に転じた。2)L-NAME処置下において観察された酸分泌促進反応は、シメチジン、DSCG(肥満細胞安定化薬)および知覚神経麻痺により抑制された。3)TC適用後、管腔内Ca量の増大と共にNOの胃腔内遊離量が増大するが、前者はEGTAとTCの同時適用により抑制され、また後者はL-NAMEおよびEGTAのいずれかの処置によってもほぼ完全に抑制された。4)一方、0.6N塩酸を投与された損傷胃でも有意な酸分泌の抑制が観察されるが、この場合、損傷部位を介する酸の逆拡散ならびに粘膜血流の増大反応も同時に認められ、結果的に損傷は7日以内にほぼ完治する。5)このような胃損傷の治癒機転はL-NAMEの連続投与により阻害されるが、アミノグアニジンでは影響を受けなかった。また、L-NAMEの投与は損傷胃における酸分泌を若干促進し、さらに粘膜血流の増大反応を完全に抑制した。以上の結果より、a)胃粘膜への軽度の傷害は、管腔内Caの上昇とNOの遊離を促し、結果的に酸分泌を抑制するものと推察される。b)この過程はおそらくCa依存性NOS活性により産生されたNOにより仲介されるものと考えられる。c)また、傷害胃粘膜では酸分泌の促進系も活性化されており、この機構には知覚神経と粘膜肥満細胞が関連するものと思われる。d)一方、胃損傷の治癒機転においてもNOは重要であり、この場合、NOは損傷部での酸の逆拡散によって誘起される粘膜血流の増大反応を仲介することにより、傷害組織の修復に貢献するものと考えられる。

研究成果

• [文献書誌] Takeuchi K.et al.: "Stimulation of acid secretion in rat stomach following exposure to taurocholate in the presence of the nitric oxide synthase inhibitor." General Pharmacology. 17. 849-854 (1996)
• [文献書誌] Kato S.et al.: "Pathways mediating pentagastrin-induced mucosal blood flow response in rat stomachs." Digestive Diseases and Sciences. 41. 485-491 (1996)
• [文献書誌] Takeuchi K.et al.: "Changes in gastric HCO_3^- secretory response to N^G-nitro L-arginine methyl ester in rats following the repeated administration." Journal of Gastroenterology and Hepatology. 11. 1164-1170 (1996)
• [文献書誌] Takeuchi K.et al.: "Regulatory mechanisms of acid secretion in the rat stomach after damage." Inflammopharmacology. 5. 43-55 (1997)
• [文献書誌] Takeuchi K.et al.: "Role of nitric oxide in mucosal blood flow response and healing of HCl-induced lesions in rat stomachs." Digestion. 58. 19-27 (1997)
• [文献書誌] Takeuchi K.et al.: "Capsaicin-sensitive sensory neurons and mucosal mast cells in regulation of acid secretion in rat stomach after damage." Digestive Diseases and Sciences. (in press). (1997)
• [文献書誌] 竹内孝治: "別冊・医学の歩み NOのすべて/NOと胃粘膜傷害-粘膜保護と傷害誘起作用" 医歯薬出版(平田結喜緒 編), 286 (1996)
• [文献書誌] 竹内孝治: "G.I.Research/アルカリ分泌と一酸化窒素-一酸化窒素合成阻害薬による促進" 先端医学社, 119 (1996)