食品中の低温菌の増殖抑制を、その生育に必須な酵素(アラニンラセマーゼ)の阻害により行うことを目的として実験を行った。予備実験において、代表的グラム陰性低温菌Pseudomonas fluorescens由来アラニンラセマーゼは、常温菌や好熱菌由来の本酵素に比べて、有機溶媒、変性剤、界面活性剤等により、容易に不活性化されることが判明した。そこで、まず、アルコール類について、低温菌の増殖に対する効果を調べた。その結果、炭素数が多いアルコールほど高い増殖抑制作用を有し、また、同じ炭素鎖でも1級アルコールが2級、3級アルコールより高い増殖抑制作用を示した。また、種々の温度で培養した低温菌に対するアルコールの増殖抑制効果を調べたところ、培養温度が低いほどアルコールに対する感受性が高いことが明らかとなった。次に、グラム陽性低温細菌についても、低温菌Bacillus pscychrosaccharolyticus由来アラニンラセマーゼ遺伝子をクローニングして塩基配列を決定すると共に、過剰発現株から容易に低温性アラニンラセマーゼを精製する条件を確立した。本精製酵素においても、耐熱性が低く、低濃度の有機溶媒や界面活性剤により容易に不活性化されることが明らかとなった。また、低温細菌は常温細菌に比べ、エタノールによって多くのUV吸収物質が抽出され、低温細菌の細胞は常温細菌の細胞よりエタノールに対する感受性が高く、エタノールによって細胞が損傷を受けやすいと考えられた。低温細菌由来アラニンラセマーゼの菌体内における温度安定性は、精製酵素の熱安定性と一致した結果が得られた。また、低温細菌のアラニンラセマーゼは、菌体内においてもエタノールに対する耐性が極端に低いことが明らかとなった。さらに、低温細菌の増殖は、常温細菌に比べ、低濃度のエタノールにより著しく増殖が抑制されることが判明した。
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