定常運動負荷の酸素摂取量は、運動開始直後、徐々に増加し、その後、その増加率が減少する.この増加率は負荷強度がある運動強度よりも低い場合にはゼロで、それ以上の負荷強度では、負荷強度が大きいほど大きくなることが知られている(O2 drift).しかし、このO2 driftが生じる原因については、未だ議論のあるところである。そこで、本研究では、運動強度が大きくなるときに乳酸生成も増加することに着目して、このO2 driftと乳酸値との関連を明らかにしようとした.また、強強度からの漸減負荷を用いると運動初期時には運動強度が高いので、乳酸生成が期待されるが、運動後半部では運動強度が低くなるので、乳酸生成は見られないと考えられる.この性質を用いると運動後半部で、もし乳酸が酸化されていれば、それに必要とされる過剰な酸素摂取が見られると考えられる. 定常運動負荷時の実験では、血中乳酸が1mM程度の増加ではO2 driftは見られなかったが、それ以上の乳酸増では、多くの場合、O2 driftが観察された.また、漸増運動負荷時では、血中乳酸値は運動初期時に増加し、その後、5-10分時にピークを示し、そして、減少した.酸素摂取量は、高負荷時を除いて、常に漸減負荷時の酸素摂取量が漸増負荷時のものよりも大きい傾向にあった(過剰酸素摂取).このことは、漸減負荷時に乳酸が酸化されているために生じていることを示唆している。また、負荷の漸減率を変化させると漸減率の低い負荷時は速い負荷時に比べて、負荷全般にわたって加算した過剰酸素摂取量は多いようであった.この差は、運動初期時に乳酸が一過性に増加し、その増加した乳酸のみが酸化されたと考えるよりも、むしろ運動時には、少なくとも運動強度が中程度以上では、乳酸生成と酸化が同時に行われているために生じているためであると考えたほうがよいことを示唆している.
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