本研究の目的は、有酸素運動がもたらす精神的、肉体的リラクセイション効果を特に脳波(α波)を基準にして評価し、最適な運動処方(運動強度、運動持続時間、運動頻度、運動の種類)の開発を目指すとともに、習慣的な運動実践がもたらす自律神経活動動態、血圧・循環調節ホルモンおよび内因性オピオイド(βエンドルフィン)に対する影響を総合的に解明しようとするものである。本年度の研究では、漸増負荷歩行中の筋疲労の生じる歩行速度(筋電図疲労閾値)を筋電図積分値を用いて決定しうることを示し、さらに、筋電図疲労閾値を基準に3種類の歩行速度を設定すると、筋電図疲労閾値強度以上の20分間歩行運動は、それより低い強度の運動に比べ、中枢神経系リラクセーション指標である脳波α波成分の増加率が高いことが明らかとなった。このことから脳波α波成分増加率が高く、ストレス軽減効果の高い最下限の運動強度が筋電図を用いて決定しうることが示された。このように本研究では、従来の呼吸循環器系および代謝系反応による画一的な運動処方とは異なる観点で運動処方を捉え、脳電図および筋電図解析を用いてストレス軽減効果の高い運動強度を決定することが可能になった。また生活習慣病リスクの高い肥満者を対象に漸増負荷運動中の心電図解析を行った研究では、心電図RR解析から求められた心拍変動パワーから心臓副交感神経活動消失強度を検出することが可能であることが明らかとなった。この研究成果から、我々は過大な心負担度を生じない安全な運動閾値の設定方法を提案し、生活習慣病リスクファクターの軽減に有効であることを実験的に確認した。
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