放射性廃棄物の地層処分の安全性を評価する上で、アクチノイド等の放射性核種の地下水を介しての移行挙動を予測することは重要な課題の一つである。なかでも地層中の有機物(フミン物質)は放射性核種と相互作用して、その移行に大きな影響を与えると予測されている。しかし、フミン物質においては、錯生成官能基が高分子骨格に固定されていることによる効果(高分子電解質効果)と、組成および構造が不均一な混合物であることによる効果が重畳しており、相互作用は複雑となる。本研究では、フミン物質のモデル物質として、組成が均一な高分子弱酸であるポリアクリル酸を選び、その酸解離およびNp(V)との相互作用を調べた。 酸塩基滴定の結果によれば、高分子弱酸の酸解離は、解離度が大きくなる程抑制され、イオン強度が高くなるほど促進される。この結果に基づき、近接官能基間の相互作用による電子的効果と、高分子上に密集している解離基が反対電荷イオンを引き付ける静電的効果を考慮して、解離度とpH、イオン強度との関係を記述するモデルを確立した。また、溶媒抽出法により得られたNp(V)のポリアクリル酸錯体の見かけの生成定数は、解離度の増加と共に増大し、イオン強度の増加と共に減少した。これらは、カルボキシル基によるNpO_2^+への配位が一座から多座に変化すること、および、多電荷を持つ高分子陰イオン近傍へのNpO_2^+の凝集に対するNa^+の競争によるものと考えた。すなわち、酸解離および錯生成における高分子電解質効果はいずれも、近接官能基間の相互作用と高分子イオン近傍への対イオンの凝集による効果として統一的に解釈できることを明らかにした。
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