本研究は、環境で確認されている高いリターやヒューマスのトリチウム濃度の原因を探ることが目的である。本年度は昨年度完成させた曝露装置を用いてトリチウムガスを土壌に曝露させる実験を行った。 【実験】 大型バルーンにキャリアーフリーのトリチウムガスを空気で希釈した。一定量をポンプで曝露チャンバーに連続的に導入し、土壌、ヒューマス、リターをトリチウムガスに曝露させた。曝露は一週間行い、1、5、7日目に試料を取り出して分析した。試料は真空凍結乾燥により含有水を回収した後、燃焼して有機分を水として回収し、液体シンチレーションカウンターでトリチウム濃度を測定した。対照実験として、トリチウム水を添加した土壌、ヒューマス、リター試料を一週間放置し、同様にトリチウム濃度を分析した。ここで含有水のトリチウム濃度をFWT、有機分の燃焼水のトリチウム濃度をOBTとする。 【結果と考察】 対照実験として行ったトリチウム水による実験では、OBT/FWTは0.005程度であり土壌、ヒューマス、リターによる違いは見られなかった。一方、トリチウムガス曝露実験では、土壌のOBT/FWTは曝露時間と共に増加し、1日目で0.03、5日目で0.06、そして7日目で0.09に達した。トリチウム水と比較するOBT/FWTは約20倍高い値を示した。また、ヒューマス、リターもトリチウム水よりも高いOBT/FWT値は示したものの、土壌に見られたような明確な連続的増加は観察されなかった。いずれにしても、トリチウムガスに曝露させた場合は、トリチウム水よりもOBTにトリチウムが多くはいることが確認された。これはトリチウムガスから微生物により生成した極めて比放射能の高いトリチウム水を微生物自身が利用して有機物を生産したことが原因と言える。土壌により明確な変化が観察されたのは、土壌の低い有機物含量によるものと言える。つまり、ヒューマスやリターでは元々存在していた有機物が多いため生成したOBTがマスクされたためである。
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