地球温暖化の影響の中で最も致命的なものに教えられる海水準の上昇について基本的な分析を行った。当研究者が提案して来た、海洋循環のエッセンスを最も簡潔に表現した「2層湧昇拡散モデル」に立って海水の熱膨張にもとづく海水準上昇を評価すると、海水準上昇は、表層500mmぐらいの大気とほぼ平衝しながら温度上昇をする部分と表面で加熱され、両極近くで深層に沈みこむことによって、下層がら徐々に昇温する部分に分けられる。前者は、今後100〜200年の間に温室効果ガス濃度を安定化させれば、その段階で昇温は止まり、海水準上昇も停止するが、後者の影響は、高温化した海水が海洋深部に徐々に広がることによって濃度安定後も時間とともにほぼ一定の割合で海水準を上昇させる。 他方、グリンランドと南極の量の変化を考えてみると、グリンランドは高温化によって氷が融解し、海水準の氷床の上昇をもたらすが、南極氷床は、ほとんどが、氷点より充分低い温度範囲にあるため、融解の効果は余り大きくない。南極氷床の量が温度の変化によってどう変わるかは、降雪による涵養と流動による損失とのバランスが決める。それぞれの温度依存性を調べてみると前者は飽和蒸気圧、後者は粘性係数が温度の関数であることによるが、その主要部分は活性化エネルギーと熱エネルギーの比を含むボルツマン因子で表される。ところが、両活性化エネルギーは、ほぼ同じ大きさ(約12kcal/mol)なので、もし南極氷床の全域が一様な温度変化をすれば、氷床の量は温度によらずほぼ一定であると結論される。 しかし、来るべき温暖化は1〜2世紀の間に2〜5℃の温度上昇がおこるという速い変化なので準平衝とは考えられない。この場合、降雪量は直ちに増加するが、氷床流動速度はほとんど変わらないと考えられる。
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