研究概要 |
我々のこれまでの研究により,日本海上部第四系細粒堆積物に見られる明暗の縞の繰り返しが,グリーンランド氷床コアにおける酸素同位体比の変動として特徴付けられる数百年〜数千年スケールの急激な気候変動(Dansggard-Oeschger Cycle)に対比されることが明らかになった.本研究では,1.従来から進められているODP797地点より採取された試料の分析結果を解析するとともに,新たに秋田沖の異なる水深より採取されたピストンコアKT-94-15-5PCおよび9PCの反射スペクトルを連続的に測定し,また底層水の酸化還元度を反映する平行葉理の保存度を詳しく記載し,2.PC-5より2.5cm間隔で採取した約180試料,PC-9から5cm間隔で採取した約60試料について,有機炭素量,炭酸塩炭素量,化学組成,鉱物組成などの分析を行ない,3.これらから選び出された95試料について,硫黄量を分析するとともに塩酸可溶鉄の抽出を行ない,黄鉄鉱化度(DOP)を推定した.これらの結果を解析,検討した結果,1.DOPと従来から使われているC/S比や平行葉理の保存度などの底層水の酸化還元度指標とは整合的であり,酸化還元度の変動をより敏感に反映すること,2.それらの指標に基づくと,日本海の深層水は度々還元化し,特に最終氷期極相期には日本海は水深800m以浅まで硫化水素が発生する強還元環境が広がったこと,3.暗色層のうちのあるものは,底層水中に酸素はほとんど存在しないが硫化水素が発生するほど著しくは還元的でなかった弱還元的環境で堆積したこと,4.暗色層の堆積期には,東シナ海沿岸水起源のケイソウが増加したこと,5.塩分が低く,栄養塩に比較的富む東シナ海沿岸水の流入が,日本海を密度成層させるとともに表層の生物生産性を上げ,その結果底層水が還元化したと考えられること,などが明らかになった.
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