研究概要 |
本年度は,PC-9コアの上位より200試料を分析する予定であったが,分析装置の不調などにより88試料の分析にとどまった.これらの試料は,最終氷期末から完新世をカバーする.但し,軟X線写真に基づく観察は,コア全体について行った.軟X線写真によれば,有機炭素量の多い暗色層には,ほとんどの場合平行葉理が保存されており,suboxic〜euxinicな環境で堆積した事を示唆する.これは,昨年度行われたPC-5の結果と調和的であり,暗色層堆積時には,還元的底層水環境が水深900mにまで及んでいたことを示唆する.一方,鉱物・元素分析結果によると,PC-9における砕屑物の主体は島弧起源のもので,黄砂の寄与は少なく,その変動も小さい.これも,PC-9がより日本列島に近く,列島起源の砕屑物の影響を強く受ける事と調和的である.しかし,わずかではあるが氷期間氷期の間で有為な差が認められ,氷期に黄砂の寄与が高い.また,完新世においては,10000〜5000^<14>C年前にかけて黄砂の寄与が低い.これは,完新世前期に中国内陸部が湿潤化した事実と整合的である.更に,微弱ながら1000年前後のタイムスケールでの黄砂寄与率の変動が観察され,北半球に大陸氷床が存在しなかった完新世にも,氷期に観察されたダンスガードサイクルと同じタイムスケールでの変動が存在したことを暗示する.この事は,ダンスガードサイクルに代表される急激な変動が間氷期にも起こりうる事を示すものとして重要である.
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