研究概要 |
放射線応答の様相の異なる哺乳動物培養細胞を用いて、DNA依存性プロテインキナーゼ(DNA-PK)の生化学的性質の解析、およびDNA-PKの作用機序の解析を行い、これによって細胞の放射線応答機構の初期過程とDNA-PKの機能を明らかにすることを目的とした。 照射後速やかな細胞死を起こすヒトTリンパ性白血病細胞MOLT-4、同じく高感受性で照射後細胞周期進行遅延が起こらない毛細血管拡張性運動失調症(Ataxia telangiectasia:AT)由来細胞のDNA-PK活性を解析したが、両者とも充分なDNA-PK活性を保持していた。 MOLT-4細胞の核抽出液から、3段階のカラムクロマトグラフィーにより精製し、更にグリセロール濃度勾配遠心により、p470とKu成分(Ku p85,Ku p70)に分離した。 精製DNA-PKの活性は37℃前処理ではほとんど変化しなかったが、44℃で前処理すると顕著に低下した。次にp470とKuを別々に前処理した後、両者を混ぜ合わせてDNA-PK活性を調べた。DNA-PKは温熱に不安定であり、それがKu成分に起因することが示唆された。DNA-PKの温熱不安定性は、2重鎖切断の修復や情報伝達の障害を介して、温熱の放射線増感作用の原因となっていると考えられた。 分離したサブユニットを抗原として、p470,Ku p85に対するウサギポリクローナル抗体を作製できた。得られた抗体はウェスタンブロッティング、免疫沈降などに使用可能であることが確認された。今後、これらの抗体を用いて、DNA-PKの分布、機能、役割について調べることを予定している。
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