研究概要 |
放射線誘発DNA2重鎖切断の再結合に関わるDNA依存性蛋白キナーゼ(DNA-PK)の機能を明らかにすることを目的として平成8年度はDNA-PK活性に対する熱や高張処理,ならびにシグナル伝達に対する作用を検討した。我々は既にDNA-PK活性がDNA2重鎖切断修復に関わることをscid細胞と染色体移入により機能的に相補したハイブリット細胞を用いて証明した。今回、DNA-PK活性が本研究課題の放射線感受性に関わることをキナーゼ活性阻害剤OK1035がPLD回復を抑制することから直接的方法で確認した。続いて、放射線からのDNA修復には複数の機序が存在すること、そしてDNA-PKはこのうち早期修復機構にだけ関与していることを報告した(J. Radiat. Res., 1996)。さらに、scidは温熱処理高感受性で(Int. J. Hypertherm.,投稿中)、この原因DNA-PKの構成成分によることが明らかとなった。すなわち、DNA-PK活性は44℃, 15分間処理で速やかに失活する。この活性はscid細胞(DNA-PKCS欠損)抽出成分の添加により回復するが、sxi細胞(Ku80欠損)抽出成分添加では回復がなかったことからDNA-PKを構成するKu80成分の熱治療や放射線との併用療法の生物学的機構を明らかにするものとして今後の発展が期待される。一方、放射線DNA修復にはp53やWAF1のシグナル伝達が関与することが知られている。scid細胞ではp53やWAF1の放射線誘導が一定時間後に起こり、明らかなシグナル伝達の異常を示した(Oncogene,投稿)修復は細胞周期調節,ゲノム安定性,発生や生殖細胞の分化(組替え)に関わっており、シグナル伝達異常とこれら生命活動に重要な維持機構らの関連性が注目される。
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