太古以来進化の源となった放射線の防御機構としてのDSB修復は、生命維持にとって重要な機能を担っていると予想される。本研究はDSB修復異常として知られるDNA-PKcs欠損マウス重症複合型免疫不全症sever combined immunodeficiency scidマウスを使って、V(D)J組換え能、熱安定性、遺伝的不安定性や催奇形成について検討したものである。 DSBは放射線だけでなく生体内の免疫組換えに於いて自然に発生することが知られている。この組換え能の欠損がscidマウスの免疫不全の原因と思われるので、pJH200およびpMG55プラスミドをRAG遺伝子と共に細胞導入してその再結合能をアッセイした。この結果、scidでは免疫組換えのsignal jointは正常に進行するが、coding joint形成が欠失しており、この事が免疫細胞の致死をもたらすと判明した。一方、DSBは放射線とハイパーサーミアの併用療法の重要な致死機構でもある。DNA-PKcsおよびKu80欠損細胞を用いてDNA-PK活性の熱安定性を検討した結果、DNA-PK構成成分Ku-80の熱不安定性がハイパーサーミアによる放射線増感の原因であることが明らかとなった。またDNA-PKは遺伝的安定性にも寄与しており、その欠損はPc-1マイクロサテライトの不安定を誘発する。さらに、個体発生にもDNA-PKは関与していることが示された。つまり、scidマウスの放射線誘発奇型は正常コントロールマウスに比較して有意に高頻度となった。このように本研究結果によりDNA-PKはDNA修復のみならず生命維持に重要な幾つかの機能を有していることが明らかとなった。
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