本年度は最終年度であり、最終的なシミュレーションモデルを構成し、シミュレーション分析を行なった。その結果は、「環境経済グローバルモデルによる生態系評価を含むシミュレーション分析」(『国民経済雑誌』、183巻5号)に示している。 モデルは、DICEモデルのグローバル経済システム部分を地球温暖化効果・対策システム部分から切り離し、そこにグローバル生態系のダイナミックな動態を接合することによって、環境と経済とのグローバルでダイナミックな相互関係の分析が可能になるように構成されている。本研究の目的である環境能力指標を組み込むために、計画期間全体にまたがる効用関数に、消費だけではなく生態系ストックに対する評価が可能になるように拡張した。そして、生態系に対する希少性の認識が消費と生態系ストックの代替の弾力性によって与えられるように工夫されている。これによって生態系に消費のそれぞれに社会がどれほどの評価ウェイトを示すのか、すなわち環境指標がとらえられるようになった。 グローバルなシミュレーション分析は、地球環境問題などを契機に、数多く行なわれているが、本研究のように社会経済評価から指標までをも分析することを中心課題として組み立てられているモデルは他にみられない。 シミュレーションの結果、いくつかの重要な知見を得ることができた。特に、最適な生態系ストックの経路として、初期の低下とその後の回復という、逆U字形をとらえることができた。さらにこれが、社会(世界)の人々の生態系に対する希少性の認識の違いによって変化することもわかった。さらに、生態系に対する貨幣価値で計った価値の、将来のダイナミックな変化も示すことができた。これは、今日、CVM(仮想評価法)などによって生態系に対する評価価値が注目されていることに関係づけることができるものである。
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