重篤なウイルス病治癒法として開発されたアンチセンス法では、チオホスフェート結合(‐O-P(=S)(O^-)-O-)を持つホスフォロチオエート型オリゴヌクレオチド(Sオリゴ)が専ら研究されてきた。本研究は「チオホスフェート結合立体異性に由来するSオリゴ構造異性体のうち薬理活性を持つ成分を特定・調製しなければならない」という最大の課題の解決を目的とし、以下を明らかにした。(1)2D-NMR及び分子動力学計算による立体異性とSオリゴ・RNA/DNA二重鎖構造の相関に関する解析を行い、Sオリゴ・RNA二重鎖の場合はRp結合が高い二重鎖安定性を与えるが、二重鎖構造は異性体間で近接しており、安定性は水和の程度等の二重鎖構造以外の要因に起因することを明らかにした。一方DNAとの二重鎖の場合は、Sp構造の場合に高い安定性が得られた。すなわち、アンチセンス分子設計に際しては立体異性を考慮することが必須であるが、標的がRNAかDNAかによって有利な立体異性は異なり、この安定化のメカニズムも異なる。(2)SオリゴpolyCの非特異的抗ウイルス効果がこの分子のとる四重鎖構造にあることを明らかにし、四重鎖安定性がRp及びSp異性に依存することを見いだした。またSオリゴpolyC標的の一つであるテロメアのCリピートに関して解析を行い、四重鎖異性生成に由来するスイッチ機構が存在する可能性を世界に先駆けて示した。この結果はSオリゴの非特異的効果全メカニズム解明に貢献するのみならず、発ガン・老化に関する生化学にも大きな影響を与えるものである。(3)チオフォスフェート結合のRp及びSp異性を制御したSオリゴの合成に関しても検討を行い、m-クロロフェノールを脱離基とする法を塩基性条件下で用いることで高反応収率及び高立体選択率でトランスエステル化反応を遂行できることを明らかにした。
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