研究概要 |
酵素トロンビンの受容体は『リガンドを自分自信に内蔵する』新しいタイプの受容体であり、このリガンドに相当する合成ペプチドSer-Phe-Leu-Leu-Arg-Asn-Pro(SFLLRNP)だけでも活性化される。本研究の目的は、受容体軌道に決定的に重要である2位Phe-フェニル基とトロンビン受容体の相互作用が、スタッキングによるπ-π相互作用か、Phe-フェニル基上の水素原子が関与したCH/π相互作用かを決定し、さらに、Phe-フェニル基の受容体結合部位を決定することである。このため、本年度はフェニルアラニンのフェニル基フッ素2〜4置換体を化学合成し、これらをSFLLRNPに導入し、受容体応答を検討することにした。含フッ素フェニルアラニンのうち、まず2置換体について、ジトリフルオロベンジルブロミドとアセタミドマロン酸ジエチルエステルを出発原料として、カップリング、全ケン化、脱炭酸するという申請者らの簡便法にてアセチル-DL体を合成した。現在、アミラーゼにより光学分割中である。一方、市販の3,4-ジトリフルオロフェニルアラニン及び、2,3,4,5,6-ペンタトリフルオロフェニルアラニンを2位に導入したSFLLRNPアナログを簡易型の手動固相合成法で合成した。ヒト神経芽腫細胞SH-EPでのイノシトールリン酸代謝活性で調べたところ、3,4-ジトリフルオロ体はp-モノトリフルオロ体と同様の強い受容体活性を示したが、ペンタトリフルオロ体は全く不活性であった。この結果は2位フェニル基に少なくとも1個以上の水素原子が残っていることが必要で、それはメタ位である可能性が強いことが示唆された。さらに、p-モノトリフルオロ体の誘導体として、フッ素の代わりに塩素、臭素、ヨウ素を導入したところ、塩素置換体がSFLLRNPと同様の活性を示したものの、他は不活性であった。これらより、p-モノトリフルオロ体の活性への寄与はその電気陰性度にも原因することが判明した。
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