研究概要 |
研究代表者は、これまでにNa/K-ATPaseのサブユニット会合ドメイン、阻害剤結合ドメイン、KやNaに感受性のあるドメイン(イオンセンサー)を同定した。本研究(平成8-9年の2年間)では、「イオンセンサー領域はATPase分子内の"あるドメイン"にイオン特異的に直接作用を及ぼし酵素活性を調節する」という分子論的作業仮説に対する直接的証拠を得た。 1。N-末端(Met^1-Leu^<69>)に存在するNa-感受性部位(Na-センサー)によるATPase活性調節の分子機序を解明するため、単離・精製したNa-センサーペプチドと結合する領域を探索したところ、M4とM5間の細胞内親水性領域が候補者として検出された。即ち、Na-センサーはATPase分子内のドメインに直接作用を及ぼし酵素活性を調節することが判った。そこで、酵母のTwo Hybrid系を用いて相互作用する領域をさらに詳細に検索したところ、Na^+センサーはFSBA-結合部位(Lys^<724>-Lys^<725>)を含んだSer^<692>-Thr^<779>領域に結合した。 2。一方、Na^+,K^+-ATPaseのカルボキシ末端に細胞膜Ca^<2+>-ATPaseのカルモジュリン結合部位を付加したキメラのイオン特異性を更に検討したところ、野性型の3Na^+/2K^+交換輸送能に対して、2Na^+/2K^+であってelectrogenicではなかった。この修飾に用いたカルモジュリン結合部位はNa^+,K^+-ATPaseのFSBA-結合領域と相互作用する。 3.また、Na^+,K^+-ATPaseの膜貫通領域M1-M10を含んだ疎水性領域とCA^<2+>-ATPaseのATP結合部位を含んだ親水性領域とから構成されたキメラATPaseの研究から、特に、M3M4とM5M6領域はATPaseのイオン特異性を決定しており、N-末端の細胞質領域およびM9-COOH領域はイオンによる調節部位を含んでいると考えられる。 4。以上の結果を合わせ検討すると、イオン輸送の本質とその調節機構における分子内サブ領域間相互作用の果たす役割は大きいと考えられる。
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