研究概要 |
銅アミン酸化酵素は、種々の生理活性アミン類の酸化的脱アミノ反応を触媒し、動植物や微生物に広く存在している。本酵素は、その活性発現に2価銅イオンを必須とするだけでなく、共有結合型の新規なキノノイド補酵素、2,4,5-トリヒドロキシフェニルアラニルキノン(TPQ)を含有している。本研究では、コリネ型細菌の一種、Arthrobacter globiformisからフェニルエチルアミン酸化酵素およびヒスタミン酸化酵素遺伝子のクローニングを行い、両酵素の全一次構造を明らかにするとともに、大腸菌内での高発現系を構築した。さらに、銅とTPQ補酵素を含まず不活性な前駆体型酵素(アポ型)を2価銅イオンとインキュベートすることにより、特定のチロシン残基からTPQが自己触媒的に生成することを実証した。また、ESRやCDなどの各種分光学的方法を用いてこのTPQ生成過程を詳細に解析し、2価銅イオンがアポ酵素と結合することによって1価に還元されること、この1価銅イオンによって分子状酸素が活性化され前駆体チロシン残基が酸化修飾されること、またその過程でセミキノンラジカル中間体が形成されることを明らかにした。一方、酸素同位体を用いる共鳴ラマン分光法により、TPQのC2位カルボニル基の酸素原子が溶媒の水に由来することを証明した。さらに、前駆体チロシン残基周辺のコンセンサス配列の役割を明らかにするため、ヒスタミン酸化酵素のコンセンサス配列中の各残基を部位特異的変異導入法により他のアミノ酸残基に置換し、各変異型酵素のTPQ生成能や触媒機能を解析した。この結果、コンセンサス配列中の各残基は、水素結合ネットワークを形成して活性部位を正しいコンホメーションを維持することにより、TPQ生成にも触媒機能にも重要な役割を担っていることが明らかになった。次に、TPQ生成過程における蛋白質の構造変化を明らかにするため、アポ酵素とTPQ含有ホロ酵素のX線結晶解析を行った。アポ酵素及びホロ酵素の2.2Å分解能での構造を比較すると、主鎖のα炭素の座標は0.4Å以内のずれで一致し、両者に構造上の違いはほとんど見られなかった。しかし、アポ酵素の前駆体チロシン残基とホロ酵素のTPQ残基の活性部位内での方向と、銅イオンを結合している1個のヒスチジン残基のイミダゾール環の向きが大きく異なっていた。これらのことから、TPQ生成過程では活性部位内に限定された数個のアミノ酸残基の微妙な構造変化(側鎖の回転や配向)が重要な役割を担っていると推定された。
|