血管内皮細胞は一般的に紡錘形を呈し、血管走行に対してその長軸を平行に配列している。この形態や配列は血流に対する機械的抵抗を激弱し、内皮細胞の血管壁からの剥離を防ぐという大切な意義がある。これまでに血流や血管伸展等の機械刺激がこの形態や配列を導くこと、細胞骨格や細胞・基質間接着分子が形態決定に重要であることが示唆されている。本研究の最終目的は、培養内皮細胞を用いて1軸周期伸展刺激による形態配列応答のシグナルカスケードを明らかにし、細胞極性形成の分子機構の解明に迫ることである。Ca^<2+>イメージング、パッチクランプ、生化学、分子生物学の各手法を駆使し多2年間のプロジェクトで、この反応の主要なシグナルカスケードをほぼ明らかにすることができた。すなわち{伸展刺激→SAチャネル活性化→細胞内Ca上昇→Ca依存性脱燐酸化酵素カルシニューリン活性化→チロシンキナーゼsrcの脱燐酸化とその活性化→接着斑蛋白質のチロシン燐酸化→接着斑と細胞骨格の再編成→形態応答}である。しかしCa^<2+>の空間分布は、測定した限り均一であり、SAチャネルの活性化や細胞内Ca^<2+>濃度分布に細胞極性の起源を求めることはできないと結論された。一方、接着斑蛋白質のチロシン燐酸化を蛍光イメージングしたところ、細胞の伸長方向に顕著に分布が偏っていた。したがって、内皮細胞の形態配向応答には、先に明らかにした.(inside-in)シグナルカスケードに加えて、直接伸展力の負荷される接着斑(おそらくインテグリン)から細胞内へ向かって接着斑蛋白質のチロシン燐酸化を調節するoutside-inの信号伝達系が存在し、これが細胞形態の極性を調節する可能性が出てきた。これと先の信号伝達系が協奏的に働いて、最終的な形態応答が導かれると思われる。この仮説を証明することが次の重要な目標である。
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