平成8年度は多波長異常分散法と多重同形置換法により3.0Å分解能の立体構造モデルの構築に成功した。このとき分子領域の正確な決定が位相の改良に大きく寄与した。平成9年度はこの立体構造を更に精密化し、分解能を1.8Åまで向上させることに成功した。得られた立体構造は結晶学的なR-因子が、22.9%であり非常に精度の高いものであった。その結果、分子中心付近に存在する活性部位のニッケル原子の横(2.6Å)に新たに鉄原子を、また、それより13Å離れた分子表面に、マグネシウム原子と思われる電子密度ピークの存在を確認することができた。鉄原子については異常分散効果を利用してその存在を証明し、横のニッケル原子と完全に分離して同定することができた。この活性部位の鉄原子には4本の非タンパク質由来の配位子が結合していることが分かった。これらのうち1本は1原子からなり、ニッケルと鉄原子をブリッジしていた。これは単独のイオウ原子であると考えている。また、残りの3本は2原子分子であると思われる。このヒドロゲナーゼ分子を持つ硫酸還元菌が偏性嫌気性菌であることおよび、立体構造原子パラメータ、赤外吸収スペクトル、熱脱着-マススペクトルなどの結果から総合的に判断して1本は、S=O、他の2本は、C≡Oか、C≡N、あるいはこれらの混合物ではないかと現在考えている。また水素の結合の立体化学についても今後研究を進める予定である。 また、このヒドロゲナーゼ結晶は単結晶中に部分的に不均一性を持つことが放射光を用いた回折実験により明らかになった。この結果は、定量的に調査し、研究中の副産物として発表した。 更に、ドイツのベルリン工科大学のル-ビッツ教授らとの協同研究ではこのヒドロゲナーゼの単結晶ESR法による研究を行った。その結果、酸化型ヒドロゲナーゼの活性中心のNi-Fe金属中心のNi原子は複数の状態の混合物であるなど多くの知見を得た。これについては更に研究を推し進めている。
|