視細胞の光情報変換における光レセプターの役割は、外界からの光を高感度に受容し、受容したシグナルを効率よくG蛋白質に伝えることである。この機能発現のために、光レセプターは発色団の異性化により捉えた光シグナルを、蛋白質表面まで分子内情報伝達し、最終的にG蛋白質に伝えるメカニズムを備えていると考えられる。本研究では、これらのメカニズムの特性を分子下のレベルで解析し、いかに巧妙に光レセプターの機能を発現するかを検討した。具体的には、光シグナルが効率よくトラップされるメカニズムを、レーザー技術を駆使した超高速分光法と吸収スペクトルのフーリエ変換法を利用して解析した。また、異なる光応答特性を示す視細胞(桿体と錐体)の光レセプターの性質を比較検討することにより、光情報の光レセプター内での伝達効率を制御する分子メカニズムを検討した。さらに、光レセプターがG蛋白質と相互作用する動的過程を分光学的に詳細に解析した。また、異なる光情報伝達経路を含んでいる視細胞の光レセプターとG蛋白質を同定することにより、光レセプター・G蛋白質間情報伝達の選択性や多様性についても検討した。 その結果、光を受容したレセプターで起こる最初の反応(発色団のシス-トランス異性化反応)が60フェムト秒という超高速で起こることを見いだし、さらに光受容後のフェムト秒領域での反応ダイナミクスを明らかにした。また、G蛋白質を活性化する中間状態の寿命は、わずか1個のアミノ酸残基によって決定されていることを発見した。一方、光レセプターがG蛋白質と相互作用する際には、結合、活性化に対応する二つの中間体が存在することを明らかにした。さらに、これまで報告されていないGo型のG蛋白質を介する光情報伝達系の存在することを発見した。
|