本年度はウシ心筋チトクロム酸化酵素の構造の詳細な検討及びコウボ酵素の精製法の検討を中心にして研究を進めた。ウシ心筋酵素は界面活性剤としてデシルマルトシドを用いて安定化され結晶化されている。このなかには5分子のホスファチジルエタノールアミン(PE)と3分子のホスファチジルグリセロール(PG)が2.8A分解能で解析された結晶構造中に確認されている。しかし、現在の分解能では更に化学的な手法を用いても検討する必要がある。酵素から脂質を抽出後、質量分析により構造を決定したところ分子量767のPE、分子量747のPGで有ることがわかり電子密度から予測される構造とよくあった。またこの他に、481に相当するピークが認められ、これにはリンも糖も含まれなかった。構造中に炭素数で34-36に相当する電子密度が存在し、これと考え合わせるとC_<32>H_<64> (OH)_2という2価アルコールの可能性が浮かび上がってきた。この機能については今後の課題である。ADP/ATPが酵素の活性調節に関与している可能性があるため、酵素の構造中に認められているコール酸結合部位がADP/ATPの結合部位であって活性調節に関与している可能性を明らかにすることを試みた。しかし、ADP/ATPと酵素の間に相互作用は認められたがコール酸と競合しているかについては生化学的には結論は得られなかった。ADP/ATP溶液に結晶を浸漬しADP/ATPで平衡化された結晶を作製しx線回折データの収集を行ない、現在解析を行っている。構造と機能の関係を類推するには2.8A分解能では不十分である。そこで結晶条件及び測定条件の改良を行い、2.3A分解能でのデータ収集を可能にしデータ収集を完了した。コウボ酵素についてはミトコンドリア膜からの酵素の可溶化条件を検討することによって収率よく精製酵素が得られるようになった。しかし、x線回折実験が可能な単結晶を得るには至らなかった。
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