研究概要 |
筋肉にはミオシンという分子モーターがあり、ATPの加水分解で得たエネルギーをアクチン繊維の滑り運動に変えている。ミオシン頭部にATPとアクチンの結合部位があり、エネルギー変換はここで起こる。本研究では、ミオシン頭部のアミノ酸残基を遺伝子工学的に別のアミノ酸に変異したミオシンを作成し、エネルギー変換機構の研究を行った。 ATP結合領域変異ミオシン: ミオシン、キネシン、等の分子モーターではATP結合部位の共通の位置にGly及びGluが存在しており、これらのアミノ酸残基がATP加水分解に伴って、分子の首振り運動に寄与する重要な残基であると提案されている。そこで、これらの残基をAlaに変えた平滑筋ミオシンのATPase活性を調べた。その結果、変異ミオシンのATPase活性はアクチンで活性化を受けないばかりでなく、ミオシン自身の活性もなくなっていることがわかった。この結果は、Gly及びGlu残基がATP加水分解過程に不可欠であることを示唆している。 既に我々の報告したアクチン結合部位の疎水性アミノ酸残基の人工変異の結果[H.Onishi,M.F.Morales,K.Katoh,and K.Fujiwara(1995)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92,11965-11969]と共に、今回の結果は、ミオシン頭部の人工変異がミオシン機能部位の解析に非常に有効な手段であることを如実に示す。 ミオシンによるエネルギー変異機構を研究する上でATPase活性測定と共にアクチンの滑り運動を測定する事は大切である。本研究で我々の得た変異ミオシンが果たしてアクチン繊維の滑り運動を引き起こすかどうか研究するために、蛍光顕微鏡を用いたアクチン繊維滑り運動観察装置を作成した。さらに、安定した滑り運動を得るために、抗体キメラミオシンを作り、ミオシン分子をより生体に近い条件でガラス表面に固定する方法の開発を行った。
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