Fisherらは、ミオシン頭部-ATP類似体複合体のX線構造解析の研究から、ATP加水分解過程でミオシンがM・ATP状態からM・ADP・P_1状態へ変換する時に(ニワトリ平滑筋ミオシンの)Ile466-Ala467-Gly468の辺りでペプチド鎖の回転が起こり、その結果、狭い50kDaクレフトの両側にあるGlu470とArg247の間に塩架橋が出来、このクレフトが閉じるという構造モデルを提案した。本研究では、この領域に変異を導入した平滑筋ヘビーメロミオシン(HMM、N末端欠損ミオシン断片)を作成し、ATP類似体を用いてFisherらが見つけた回転運動や塩架橋の形成がATP加水分解過程で本当に起こるかどうかを検討した。変異体蛋白質はバキュロウイルス-培養昆虫細胞系を使って発現した。Gly468をAlaに置換した変異体ではATPase活性、リン酸の初期突発、ATPによるトリプトファン蛍光の増大をいずれも起こらなかった。また、Glu470をAlaに置換した変異体もATPase活性とリン酸突発を起こらなかったが、M・ATP^*の形成を示す蛍光増大は観察された。Glu470の変異体では加水分解を起こらなくなったのは、グルタミン酸をアラニンに変えたことによってプロトン受容体が無くなったためか、或いは、Fisherらの提案した塩架橋の一端であるグルタミン酸が無くなったために架橋が起こらなくなったためかを決めるために、更に我々はGlu470をArgに変えArg247をGluに変えた二重変異体HMMとそれぞれ一方だけを変えた一重変異体HMMを作成した。二重変異体は野生型HMMと同様、ATPase活性、リン酸突発、M・ADP・P^<**>_iの形成を示すハイレベルのトリプトファン蛍光増大が起こったが、一重変異体ではそのような活性はいずれも観察できなかった。この結果から、二重変異体では電荷の方向は逆であるが塩架橋が起こっていることが示唆された。以上の様な研究から、我々はGly468における回転と塩架橋の形成は両方とも加水分解過程に必要不可欠な構造変化であると提案した。
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