研究概要 |
哺乳類に特徴的な遺伝子発現機構であり、哺乳類の個体発生、成長、行動に重要な役割を果たしているゲノミック・インプリンティング現象の全貌を明らかにし、その生物学的な意義を明らかにするために、この現象の支配下にある遺伝子群の新規サブトラクション法による体系的にプリンティングの分離を行っている。これまでに父親由来のゲノムのみから発現する遺伝子群(Peg,Paternally expressed genes)を8個、母親由来のゲノムのみから発現する遺伝子群(Meg,Maternally expressed genes)を5個の分離に成功している。このうち9個が新規遺伝子であり、この方法が世界で最も効率的に稼働働していることを実証した。また、さらに幾つかの候補遺伝子についても解析中である。 これまでの一連の研究による得られた大きな成果の一つは、新規遺伝子のヒト相同遺伝子の多くがヒト遺伝病に関係している可能性が高く、出生前後の生育遅滞を引き起こすSilver-Russell症候群をはじめ、脳腫瘍であるグリオーマ、胎児性のガンであるWilms'腫瘍などの原因遺伝子候補が分離されたことである。さらに、このような体系的な遺伝子の同定から、インプリンティング遺伝子に共通する発現場所が胎盤組織にあることを発見したことが挙げられる。これにより、インプリンティング現象の生物学的な意義に関して新しい仮説(新胎盤仮説)を提唱し、この現象が哺乳類の胎盤形成に重要な役割を果たしていることを示唆した。今後、この遺伝子発現の機構を明らかにすることによりこの仮説の妥当性を検討したいと考えている。
|