mRNAの核・細胞質間輸送は、真核生物の遺伝子発現において必要不可欠な過程である。しかしながら、その分子機構には未だに不明な部分が多い。我々は、mRNA核外輸送の分子機構を明らかにすることを目的として、遺伝的操作が行いやすく、かつ、高等真核生物との類似点の多い分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)を用いて、制限温度下でmRNAが核に蓄積する、mRNA核外輸送温度感受性変異株7株(ptr1〜ptr7)を同定した。昨年度、これらのうちのptr1〜ptr4変異株について、原因遺伝子のクローニングを行った。今回、残りのptr5〜ptr7変異株について、それぞれの変異について機能相補する野生型遺伝子を分離した。その結果、ptr5^+はデータベース中のタンパク質と有意な相同性のない、全く新規な蛋白をコードしていることが判明した。一方、ptr7^+はATP/GTP結合配列をその配列内に持つ因子をコードしていた。Ptr7pと相同性の高い因子をコードしている遺伝子が、ヒト、線虫、出芽酵母などのゲノム内に見いだされ、ptr7^+遺伝子は種間において非常によく保存された遺伝子であることが明らかになった。ptr7^+遺伝子は分裂酵母の生育にとって必須な遺伝子であること、及びPtr7p蛋白は主として核に存在することが実験的に示された。今後、大腸菌内で発現させたPtr7p蛋白を用いて機能解析を行う予定である。また、Ptr6p蛋白はヒトの転写因子TAFII55と有意な相同性を示したことから、TAFII55の分裂酵母における相同因子と考えられた。これらの結果は、mRNA核外輸送と遺伝子の転写機構との間に何らかの制御ネットワークが存在する可能性を示唆している。
|