核-細胞質間情報伝達機構の解明は、細胞増殖、細胞死、細胞分化など、様々な細胞機能に密接に関わる重要な研究テーマである。本研究は、増殖因子やホルモンなどの細胞外刺激に応答し、細胞内シグナルとして機能する分子が、どのようにして細胞質から核内に移行するのかを分子レベルで明らかにすることを目的とし、interferon-γの刺激によって細胞質から核内に移行することが知られているSTAT1分子に着目して研究を進め、以下に示す成果を挙げた。 1.STAT1分子には、従来より知られている、塩基性アミノ酸のクラスターからなる核局在化シグナルが一次構造上は存在しないことがわかった。 2.一方、STAT1の細胞質から核膜孔までの輸送は、SV40 T抗原のような構成的に核へ輸送されるような蛋白質と同様に、細胞質において核膜孔ターゲティング複合体を形成することによって起こることを示した。また、大きなファミリーを形成することがわかってきた、核膜孔ターゲティング複合体構成58kDa因子に関して、NPI-1と呼ばれる分子が特異的に働くことがわかった。さらに、NPI-1と活性化されたSTAT1分子の結合には、NPI-1分子のC末端部分が重要であり、NPI-1という分子は、その中央部分に存在するアルマジロ構造と呼ばれる領域でSV40 T抗原などの核蛋白質を結合するとともに、同時に活性化STAT1とも結合できる、ユニークな性質を持った分子であることも明らかとなった。 3.核膜孔ターゲティング複合体を形成した活性化STAT1分子の核膜孔通過のステップは、SV40 T抗原などの核蛋白質と同様に、低分子量G蛋白質Ranが重要な役割を果たすことが明らかとなった。 以上のように、本研究の研究目的に沿った成果が得られた。
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