本研究においては、PKNと直接的、間接的に相互作用することによりシグナリングを制御している分子の同定を種々の方法を用いて行い、既知のシグナリング分子との関連も含めて、複雑なシグナリングネットワークの解明の一助とすることを目指した。以下に、得られた結果の概略を記す。 1.PKNと相互作用する蛋白質の解析 PKNは、アラキドン酸などの不飽和脂肪酸により特異的に活性化され、アミノ末端側の調節領域に特徴的な構造を持つ新規のタンパク質リン酸化酵素である。この酵素の生理的機能を探る一つの方法として、これと相互作用する分子の同定、解析を行った。その結果、細胞骨格の構築に重要な役割を担っていると考えられる低分子量GTP結合蛋白質RhoがPKNと直接GTP依存的に結合し、PKNの活性化を引き起こすこと、中間径フィラメントであるニューロフィラメントやビメンチンとPKNは直接結合し、またこれをリン酸化することによりニューロフィラメントの重合・脱重合を制御していること、α-アクチニンともPKNが直接結合すること、さらに卵巣癌、子宮癌や乳癌を伴う亜急性小脳変性症(Paraneoplastic cerebellar degeneration)の自抗体により認識される抗原としてクローニングされ転写因子としての機能が推測されるPCD17が、PKNと特異的に結合することなどを明らかにし、その結合領域、結合様式などを詳細に解析した。 2.PKNの細胞内局在に関する解析 PKNに対する特異抗体を用いてPKNの細胞内局在について解析したところ、通常の状態ではPKNは細胞質中に存在するのに対して、熱などのストレスにより速やかに核に移行することが明らかとなり、PKNは、遺伝子発現制御を含む核内でのイベントにも何らかの機能を持っている事が示唆された。 以上の結果より、PKNが情報伝達機構において、かなり多機能な蛋白質リン酸化酵素として働いており、細胞骨格構築および細胞核機能のいずれにも、その情報伝達を制御する分子であることが期待される。今後、PKNの活性化機構の詳細な検討、および生理的基質蛋白質の探索を行うと同時に、相互作用する蛋白質の解析をさらに進めることにより、PKNの情報伝達機構における役割の解明を目指したい。
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