精子の先体反応は、受精にいたる一連の精子・卵相互作用の内でもその中核をなす重要なものである。哺乳類・棘皮動物で先体反応を誘起する卵側のシグナル物質として卵外被の糖鎖の重要性が指摘されているがその構造は明らかにされていない。ヒトデではその誘起にはゼリー層中の3成分、即ち先体反応誘起物質ARISと命名された硫酸化糖タンパク質、Co-ARISというステロイドサポニン、およびAsterosap(SAP)と名付けた34残基からなる精子活性化ペプチドが協同して働いている。これらの3成分のうちでも特に重要なARISは主に硫酸化糖鎖成分が活性を担っている。本研究では第1にこの糖鎖部分の構造解析を行なった。その結果、[-4βXyll-3αGall-3αFuc(4S)1-3αFuc(4S)1-4αFucl-]_n(S:硫酸基)の5糖の繰り返し構造を持つ直鎖状の糖鎖であることをあきらかにした。この糖鎖の両硫酸基が先体反応誘起活性、ARIS受容体への結合活性に必須であること、さらにこのような構造が少なくとも15単位程度は繰り返されていることが必要であることも明らかにした。現在、この糖鎖フラグメントを用いてARIS受容体の解析を行っている。第2に精子細胞膜上のSAP受容体の解析を行なった。標識したヒトデのSAPを用いて、遠心法により精子との結合実験を行なったところ、精子にはSAPに対して非常に高い親和性の受容体が、一細胞当り約10万分子存在し、精子の鞭毛に局在することが明らかとなった。更に、Scatchard plotによる解析から、この受容体は正の協同性を示すことが明らかとなった。また、精子一受容体間の競合結合阻害実験によって、SAPの分子内ジスルフィド結合が活性さらに受容体に対する親和性に必須であること、2価の陽イオンがSAP一受容体間の相互作用に重要な働きをしていることを発見した。
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