生殖細胞や生殖巣の発生分化に関わる遺伝子機構の解析のために、培養下で増殖させた胎仔生殖細胞に遺伝子導入を行う方法を改良して、約20%の生殖細胞での一過性発現を行わせることに成功した。この方法を用いて、アポトーシスを抑制する働きを持つことが知られているbcl-xLやアデノイウルスE1b 19kDa遺伝子の強制発現が培養下の生殖細胞でも細胞死を抑える効果を持つことを示した。このbcl-xLは精巣の精子細胞で強く発現することが知られているが、胎仔期の生殖巣での発現は報告がない。我々が調べたところ、RT-PCR法で検出できる程度の発現は胎仔精巣と卵巣で確認できたが、ノーザン法や抗体染色法では明瞭には確認できなかった。性分化開始時期以降の生殖細胞については、これまでの培養実験系では細胞死が起きてしまい、この重要な時期の生殖細胞と体細胞の相互作用などを解析するための実験系は未だに存在しない。そこで、11日齢から15日齢胎仔の生殖巣から体細胞株を樹立して、生殖細胞との共培養を行うことにより、生殖細胞の増殖成分と分化に及ぼす効果を調べた。また生殖巣の性分化に関与する遺伝子の検索を進めた。また、生殖巣へ到着後のマウス始原生殖細胞を取りだし、サイトカインLIFを培養液に加えると同時にフォルスコリンやレチノイン酸存在下で培養することによって樹立したEG細胞株について、生殖細胞の性質を保持しているかを検定するために胎仔精巣や卵巣の体細胞との再凝集塊を作成した。これらをWミュータントマウスの精巣や卵巣内へ移植して配偶子分化が起きるかを調べる実験を行ったが、いまのところテラトーマに分化しているらしく、生殖細胞の分化は見られなかった。
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