研究概要 |
ラット脳の発達過程で胎生期に一過性に発現される遺伝子群の単離・同定を前年度に引き続き行うと共に、それら胎生期脳選択的遺伝子の完全長cDNAを単離して解析を行った。その結果、これまでに同定した遺伝子群(β-tubulin Mβ5,β-tublin Mβ2,α-tublin Mα1,thymosin β10,stathmin,neuronatin,ferrintin L chain,α-internexin,amphoterin)に加えて、新たにPI-kinase typeIIβ,SAPAP-4,MARKS,MAZ,MN1,classIIIβ-tubulinなどの遺伝子を胎生期脳選択的遺伝子として同定することができた。これらの遺伝子の多くは、ごく最近Databaseに報告されたものであり、我々の解析結果はこれらの遺伝子群の脳の発生過程における重要性を示唆している。さらにクローンFBE5、FBE88,FBE254については、それぞれ分子量58K,98K,92KDaの蛋白をコードする全く新しい胎生期脳選択的遺伝子であることが判明した。詳細な蛋白構造解析の結果、FBE88遺伝子は転写調節遺伝子のPolycomb group(PcG)に属する新規遺伝子であり、Drosophilaで神経系腫瘍を引き起こすlethal(3)malignant brain tumor遺伝子と構造上の類似性を持っていることが明らかにされた。FBE88のヒトcDNAホモログを単離して発現解析を行った結果では、これまでのところヒト脳腫瘍細胞での発現は認められていないが、神経系細胞でtumor suppressor遺伝子として機能している可能性も考えられた。 今回単離・同定した胎生期脳選択的遺伝子群についてヒトホモログを単離してヒト腫瘍組織での発現解析を行った結果の中では、Neuronatin遺伝子がヒト下垂体腺腫に選択的に発現しており、特にホルモンを産生しない非機能性下垂体腺腫でもほとんどの症例で強く発現していることが注目された。この結果は、Neuronatinがヒト下垂体腫瘍の新しい分子マーカーとして利用できる可能性を示している。
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