神経再生関連遺伝子の探索のために、片側舌下神経損傷動物を作成し、健常側と術側からそれぞれ得られたRNAを用いてディファレンシャルディスプレイ法を行った。その結果多くの既知遺伝子や未知遺伝子断片が得られた。in situハイブリダイゼイション法によるスクリーニングにより組織上でも発現上昇が得られる候補遺伝子をしぼり込んだ。軸索内輸送に関連するキネシンやダイニン、Ras-ERK系細胞内情報伝達に関与するRaf-1を活性化する14-3-3、細胞周期に関連するサイクリンG、グルタミン酸の代謝に関連するグルタミン合成酵素などの既知遺伝子が得られた。これらはいずれも神経再生には重要な役割を果たすことが予想される。一方、未知分子として得られたものには、未知の膜7回貫通型の受容体様分子、多数のカムキナーゼリン酸化部位を有する細胞内情報伝達分子と予想される未知分子、神経再生にきわめて特異的で発生の途上でも脳内の他の領域にも全く発現が認められない分子、などが検出された。これらの分子群に関してはそれらの機能解析を現在進めている。以上のように今回用いた方法はきわめて効率良く神経軸索再生関連遺伝子の検出を可能にした。一方赤核脊髄路の切断再生モデルに関しては、きわめて再現性が悪く、なかなか今回の実験系には使用しにくいことが明らかとなった。このため、異なる実験系に転換を考えている。舌下神経などの運動神経は成獣では軸索損傷後に再生することができるが、幼若な時期では中枢神経と同様に再生が起こらず細胞死にいたる。したがって、中枢神経系と比較的良く似た幼若動物と成獣の舌下神経損傷モデルにおいて、その、再生の分子基盤の相違を検索することにした。現在生後2から4日目の舌下神経を損傷し確実に細胞死へ向かう実験系の確立と、各種分子の発現動態を調べ成獣のそれと比較検討を行っている。
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