研究概要 |
神経突起の形成には微小管の増量と同時に安定化が必須である。我々は最近、ビデオ増強微分干渉顕微鏡(VEC-DIC)を用いて突起内微小管の安定性を直接観察する方法を確立した。本研究は、この新しい光学的方法と従来の生化学的方法を併用して、微小管の安定化機構およびこれに対する外部因子の作用機序を解明することを目的としている。本年度は、培養神経細胞の系で突起内微小管の性質を詳しく調べるとともに、安定化因子の一つと考えられるタウ蛋白について分析し、以下の結果を得た。 (1)フロー・セル内に初代培養後根神経節細胞をセットし、VEC-DIC観察下に界面活性剤を含む緩衝液を灌流して細胞膜を除去、突起内微小管を露出して、外液中の脱重合過程を直接観察した。その結果、突起成熟に伴って外液中でも30分以上残存する安定型微小管が出現すること、細胞体近位部と遠位部では安定化機構に差異がみられることなどの新しい知見が得られた(投稿中)。更に、レーザー光照射によって安定型微小管を切断し、断端の脱重合を解析して、微小管が全長にわたって均質に安定化されているのではないことを示す結果を得た。 (2)タウ蛋白の微小管結合能および安定化能はリン酸化によって低下するとされてきたが、脱リン酸を防ぎながら調製したタウは高度にリン酸化されているにも拘わらず高い微小管重合促進活性を示すこと、またリン酸化は重合核形成、微小管伸長、束形成などの各側面に異なる作用をおよぼすことをVEC-DIC法を用いた解析により明らかにした(Biochem.Biophys.Res.Commun.,225,462-468,1996)。 (3)ラット坐骨神経の系でタウの軸索内輸送を調べ、その一部が不溶性で、不溶性チューブリンとともに最も遅い成分で運ばれることを示した(J.Neurochem.,67,1566-1574,1996).
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