研究概要 |
神経突起の形成には微小管の増量と同時に安定化が必須である。我々は最近、培養神経細胞をセットしたフロー・セルに、界面活性剤を含む緩衝液を灌流して細胞膜を除去、突起内微小管を外液中に露出して、ビデオ増強微分干渉顕微鏡(VEC-DIC)でその一本一本を直接観察する方法を確立した。本研究では、この新しい光学的方法を利用し、突起における微小管安定化機構に関して以下のような新たな知見を得た。 〔1〕細胞膜除去後、外液中でも30分以上残存する安定型微小管は、突起成熟に伴って出現し、培養5日以降の突起では全長にわたって存在した。安定型微小管はほとんど単独で、限られた部位でのみ細胞成分や基質と接着し、大部分は溶液中に浮遊していた。(J.Neurosci.Res.,50,81-93,1997) 〔2〕露出した微小管をレーザー光照射によって切断し、その脱重合過程をVEC-DIC観察により解析した結果、安定型微小管はゆっくりと断続的に脱重合することが判明した。また、切断直後あるいは脱重合中の曲率や方向の変化から、微小管を基質に固定する特異的の存在が明らかになった。(投稿中) 〔3〕精製チューブリンと微小管結合蛋白タウから再構成した微小管では突起微小管のような高度の安定化はみられなかった。また、タウのリン酸化は、重合核形成、微小管伸長、束形成など、その機能の各側面に異なる影響を及ぼすことが、VEC-DIC観察により判明した。(Biochem.Biophys.Res.Comm.,225,462-468,199 以上の結果は、微小管が全長にわたって均質に安定化されているのではなく、両端の保護が重要であることを示し、固定点や脱重合休止点など、微小管上の未知の特異点の存在を明らかにした。今後、これらの特異点の分子構造を調べることにより、微小管制御機構の解明に貢献できるものと期待される。
|