研究概要 |
中枢ニューロンは幹細胞から分化すると同時に非可逆的に増殖能を失い、個体の生涯を通して再び分裂をすることはない。このニューロンの示す分裂終了という形質は、ニューロンの示す最も基本的かつ重要な性質であるが、その分子機構については不明である。本研究では神経分化に特異的な蛋白質necdinがニューロン分化に伴う分裂終了機構に関わるかを検討した。 NecdinはDNAがんウイルス由来のがん蛋白質であるSV40 large T抗原やアデノウイルスE1Aと結合した。これらの性質はがん抑制遺伝子産物であるレチノブラストーマ蛋白質(Rb)の性質と類似している.Rbは細胞増殖を制御する細胞性転写因子E2F1と結合して,DNA複製に関与する種々の遺伝子の発現を抑制することが知られている.Necdinも同様にE2F1と結合してE2F1依存性の遺伝子転写を抑制した.また,Rbを欠損するSAOS2細胞の増殖を抑制することから,necdinは機能的にもRbの代用となることがわかった.次に,ヒトnecdin遺伝子の構造と機能を調べたところ,その5'近位上流にCpGislandが存在し,この部位をメチル化すると転写活性が抑制された.メチル化はゲノムインプリンティングの機構として重要視されているが,ヒトnecdin遺伝子はゲノムインプリンティングが関与する視床下部ニューロンの発達異常症として知られるプラダー・ウイリ症候群の原因遺伝子の局在部位15q11-q12に存在した.さらに,大腸菌で作製したnecdinの組換え蛋白質に対する抗体を用いて,マウス脳内のnecdinの分布を調べたところ,necdinは殆どのニューロンの細胞質に存在し,特に視床下部ニューロンが高濃度のnecdinを含んでいた.以上の結果,necdinはRbと同様な機構でニューロンの細胞分裂を抑制すること,また,その遺伝子が欠損すると,ニューロン分化が障害される可能性が示唆された.
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